本日 イムリ(漫画)の最新刊 が発売された。
そもそもイムリとはどんな漫画かというとルーンとマージという2つの星に暮らす3つの民族の争いについて描いた大河的SF漫画である。
3つの民族にはカーマ、イコル、イムリがおり、カーマは科学技術や人の心を操る術を駆使して覇権を握っており、イコルは奴隷層としてカーマに使役され、イムリはルーンという田舎の星で暮らす牧歌的な魔法使いといった立ち位置からスタートする。
その3つの民族勢力のうねりが個々の登場人物の物語を交えて動いていき、少しずつ力関係が変わっていく重厚な物語として紡がれておりとても面白い作品である。
唯一の欠点としては、物語の世界観が独特で一巻だけ読んでも面白さが分からず挫折してしまう可能性が大いにある点。是非とも最低10巻あたりまで読んでまた1巻に戻って読み直して欲しい。1巻がどれだけ先の展開を見据えながら描かれているかという点がそこかしこに読み取れて驚くと思う。
作品として完成度が高いイムリであるが、個人的にツボった理由の一つとしては、「カーマの侵犯術」が現実の仕事で関わる権力者たちとのアナロジーとして身近なもののように感じられたという点がある(詳細下記)。
そもそもイムリの中の「カーマの侵犯術」とは、支配民カーマが独占している術の一つで上の階層の呪師が下の階層の呪師の名前を呼んで命令すると途端に命令された側は完全に何も考えずにその命令に従うようになる術のことである。
一見すると、上級呪師の方が圧倒的に優位な立場で下級呪師は感情の無い機械のようにされてしまったように思えるだろう。しかし、物語の中では実際は「上級の呪師こそがカーマの侵犯術を信奉しすぎるあまりほんとうの心が失われてしまった者たちである」と主人公のデュルクに看破されている。
ここで現実に立ち返ってみて例えば企業等での仕事において「ほんとうの心が失われた上級呪師」って誰のことかを考えてみてほしい。おそらく部下に権力で無茶苦茶な命令をする上司とか下請けに誰もできもしない仕事を丸投げする顧客などの権力をふるえる立場にいて、かつその権力に毒され尽くしたような人々が想起されるのではないかと思う。
イムリをSF漫画としてだけ読むと上級の呪師たちは人の皮をかぶった心を持たない狡猾な悪者で純粋なフィクションと思うだろうが、現実にも権力という名の術に心を支配されたほんとうの心を持たないサイコパスはこの世には残念ながら存在したりする(私自身そうした人を観測したことが何度かある)。
イムリの中では主人公デュルクはひたすら「ほんとうの心を自他共に失わせない」ために術に心を支配された者たちに対しどのように行動すれば救え/救われるのかという点を苦悩しながら考え行動を続けるのである。そうした点が自分にとってこの物語をとてもリアルに感じさせる要因の一つになっていると言っても過言ではない。
と、まぁ、そんな話を昔飲み屋で前職の同期にしたら「お前ちょっと考えすぎなんちゃう(笑)」と一笑に付されてしまった。確かに今考えるとイムリの世界をリアルに感じられるような環境ってかなりヤバいなと思う。みなさまもぜひ一度イムリを読んで「ほんとうの心を持たない上級呪師」が身近にいる環境かどうか今一度確かめてみてはどうだろうか。